2020-11-25から1日間の記事一覧
幼いころの記憶のひとつに、不正への怒りというものがある。彼と兄弟たちは川や池で釣りをするのが好きだったが、彼らの地主の番頭につかまるのを恐れて、こっそりとやらなければならなかった。というのは、川や、うちの小さな畑の中の池のどんな魚も、地主…
さじを握ることができるようになると、自分の手で食べた。それからむずかしい箸を使えるようになった。怪我をしたときには、だれもなぐさめてくれなかったので、ひとりで泣くか、泣かずに我慢するかだった。気候が暖かなときには、ほとんど裸でかけまわった…
小さなテーブルをはさんで私たちがかけたとき、ろうそくの光は朱将軍のしわ深い顔にたわむれ、目はかがやき、この女が自分の生涯のどんなことをたずねようとするのかと好奇心に燃えている様子だった。 「最初からはじめましょう」と私はいった。 彼は話しは…
彼が私の仕事に協力してくれることになった最初の夕方、私の中国語教師であり、秘書と通訳をかねたリリー・チャンという若い女優と、私たちが住居としていた黄土の洞窟の前の露台で私は彼を待っていた。私が中国語を理解できないときや、朱将軍と私が部分的…
私たちの作業が伝記の真ん中ぐらいまできたとき、抗日戦がはじまり、彼は前線に出た。私も伝記本の作業は中止して、すぐに前線に向かったが、それはただ別の本を書く目的からだけではなく、行動する彼をできるかぎり観察したかったからである。そういうわけ…
私はアメリカ民謡の一行を思い出した。「銃で物盗りする奴もいりゃ、万年筆でやる奴もいる」しかし私はそれを口にしないで、すぐに彼の生涯についてあれこれとたずねはじめた。ひとつの問いに対して、彼は訂正した。彼の出身は富んだ地主ではなく、四川省の…
身長は5フィート8インチ(173cm)ぐらいだろう。みにくくもなく、好男子でもなく、また英雄的とか烈火のごとしとかいう感じはまったくない。頭は丸く、短く切った黒髪には灰色がまじっていて、額はひろびろとしてやや高く、頬骨は張っている。強くがっしりと…
これは、中国人民解放軍総司令官朱徳将軍の60歳までの生涯を記録した物語である。私がこの物語を書くことを朱将軍は許可してくれているが、公式の伝記というものではない。物語の舞台が遠い過去のものになっているために、また彼が、世界をゆるがしている中…
朝鮮半島が日本に併合されていた時代の有名な政策「創氏改名」を調べる機会があって、氏や姓、ファミリーネームについて考えたことがある。 もう十年前になる。 日本の苗字は血縁集団ではなく、「家」の名前である。 かつて儒教文化圏にいた民族は血縁集団の…