Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

本と映画

従軍慰安婦の時代背景を文芸作品で考える

作家宮尾登美子の文体が好きで、エッセイを若い頃よく読んだ。小説は1冊も読んでいないが、映画化を通じて花柳界(この表現でいいのか?)という、普通の人なら書けない世界で生きる女の人生をたくさん描いていることはわかっていた。 彼女はとてもめずらし…

朝鮮戦争前夜の香港をえがいている『慕情』

文庫本『慕情』(角川文庫)著者ハン・スーインは、「もう読み返すことはない」と思い手放した。 この本はアメリカ映画「慕情」の原作“A Many-Splendored Thing”(多くの輝けるもの)の全訳だった。 もう絶版で図書館の書庫におさまっている作品だ。 ネットで…

柳田國男の『遠野物語』にふれて

ちょっとゆっくりできる冬がすぎて春になると、畑での作業も増えて、わずか数時間戸外ですごしただけで、自宅で回復するまでに時間がかかるようになってきた。 自宅ではごろんと横になってネットで情報を読んだり、耳元でラジオを聴く時間も増えてきた。 そ…

『キューポラのある街』を久しぶりに鑑賞

1年前『キューポラのある街』をテレビでやっていることがわかり久しぶりに観た。数十年ぶりなので、あらためて知ることもあり、思わず涙ぐんでしまったり、おかしくて苦笑いしたり最後まで楽しんだ。 吉永小百合さんがほんとにいい俳優だということを再認識…

森崎和江さんが語る植民者二世の日本語と母語

女性史の在野の研究家でもある作家森崎和江さんの父親は、日韓併合後の朝鮮半島で現地Koreanの五年生の中学校である高等普通学校の教師だった。 この普通ということばがつくと現地Koreanの学校になる。 森崎さんは1927年に朝鮮半島で生まれたのだが、ご…

孫文研究家故山口一郎氏への謝意

大阪でアジア図書館を運営している市民団体アジアセンター21の代表をなさっていた山口一郎氏が亡くなったことは、当時購読していた新聞の訃報欄で知った。 たしか、学会が何かの出席のために中国に滞在していたときに、ホテルで入浴中に亡くなられたと記憶…

『朽ちていった命 ー被曝治療83日間の記録ー』を読了

1911年、東北の大震災に続いて、原発が爆発した。 これからどうなっていくのかよくわからないまま、テレビやネットの情報に釘づけになったことは覚えている。 そんな日々に、この本は近所のブックオフを覗いて、新潮文庫の棚で偶然見つけたものだった。 夕飯…

北朝鮮帰国事業を描く映画『キューポラのある街』

1961年に出版された同名の小説『キューポラのある町』は現在は公共図書館で探すのは苦労すると思う。 多分書庫に保管されているだろう。 しかし、アジア図書館では、少なくとも私が勤めていた時期はKOREAを知るための文学書の1冊としてさりげなく棚に納まっ…

『北朝鮮で兄は死んだ』を読んで

著者はまったく記憶にないかも知れないが、私は小学校中学年ぐらいのかわいい彼女を覚えていた。 「お兄さんが……」という話も当時ちらっと聞いた記憶がある。 ン十年ほど前に先輩に頼まれてほんの短い期間塾講師の替わりをしたことがあった。 ドリルをさせて…

須賀敦子著『コルシア書店の仲間たち』

2008年にBS朝日で再放送された「須賀敦子―静かなる魂の旅」で初めて知った作家だった。 放送予告で興味がわいたのだが、「好きになりそうな人なのに、名前を知らなかった」というのが大きな動機だった。 その後もNHKで特集番組があったので、興味深く観…

『女たちの肖像ー友と出会う航海』を読んで

『女たちの肖像』は、私が変わっていく過程でそばにあった本だった。 著者は中村輝子さんというジャーナリストで、人文書院から1986年に発行されたもの。 ユニークな創作活動で知られた6人の女性の手軽な入門書のようにわかりやすく書かれた本で、それぞれが…

作家ハン・スーイン(Han Suyin)の自伝

自宅の本については断捨離をすすめてきたので、この作家の本はもう手元にない。 2012年に96歳でスイスで亡くなったという訃報を得て感慨深いものがあった。 1916年にユーラシアンとして中国で生まれ育ったけれど、中国人としても西洋人としてもはまりにくい…

ハンナ・アーレントの著作と映画

むずかしい哲学書は読めないのに、アーレントの本は読みたくて仕方がなかったときがあった。 振り返ると、人生の山ではなくてやっぱり谷にいた時期だった。 しかし、せっかく手に取っても、ペラペラとめくってみた段階であきらめることが少なくなかった。 難…

気高い娼婦たち

若いころ観た映画や読んだ小説の中に出てきた娼婦たちのことを、思い返してみた。 もう数十年前の記憶なので、内容はあやふやだし、記憶違いが多いかも知れないが……。 文芸作品に脇役として出てくる娼婦たちは、当時の上流階級の紳士淑女からも庶民の女たち…

北朝鮮に帰国した友を想う人

北朝鮮に関係した個人的な話しを直接話してくれたのは、後にも先にもこの方だけだった。 吉永小百合さん主演の古い映画『キューポラのある町』でも、帰国船で帰る男の子のエピソードが出てくるが、この「友を想う人」とは関係が逆になる。 映画の中では面倒…

アジア図書館の本 ー『シャム・ラオス・安南三国探検実記』ー

もうかなりむかしに読んだ本なので、内容はほとんど忘れかけているが、岩本千綱著 『シャム・ラオス・安南三国探検実記』は楽しく読んだ。 アジア図書館で働いていた頃なので、こういうアジアに関する珍しい本にも出会える機会が多かった。 紹介してくれたの…

アジア図書館の本 ー『両班(ヤンバン)―李朝社会の特権階層』ー

著者は大学教員をされている方で1995年に発行された中公新書である。 アジア図書館を辞めてから出版を知り購入したのだが、アジア図書館にも典型的な社会科学系の蔵書として所有してあると思う。 とても興味深い本だった。 長い間解けないままに頭の隅にあっ…

アジア図書館の本 ー『偉大なる道』ー

「これは、中国人民解放軍の総司令官朱徳将軍の生涯の、六十歳の時までの物語である」 で始まる、アグネス・スメドレーが実際に朱徳から聞き取りをして、アメリカで編集し、日本で阿部知二の翻訳で1955年に単行本として出版されたこの本がずっと好きだった。…

アジア図書館の本 ーハン・スーイン著『悲傷の樹』ー

ハン・スーイン著『自伝的中国現代史シリーズ』は全5巻で1冊1冊読み応えのある本である。 なかでも第1巻の『悲傷の樹』は昭和45年10月発行で、私が一番好きな巻。 かんたんに言えば、彼女の家の歴史を横糸にして激動する近現代までの中国の歴史を綴った大…

アジア図書館の本 ーミャンマー(ビルマ)ー

アジア図書館の東南アジアコーナーの書架で一番好きだったのはベトナムコーナーで、次いで興味を持ったのはビルマコーナーだった。 1989年にミャンマーと正式に国名を変えているので、書物の題名もビルマとミャンマーが混在している。 具体的には発行年によ…

アジア図書館の本 ーベトナム戦争ー

現在のベトナムは手頃な値段で観光旅行がしやすくなってきて、日本にとって遠い国ではない。 かつてはトナム戦争の関係でよくきいたダナンという町やホーチミン、ハノイも若者の観光の人気スポットになっていることを知ったとき、時代は変化していくとしみじ…

アジア図書館の本 ーインパール作戦ー

ビルマ・インパール作戦とは第二次世界大戦中の1944年3月から7月にかけて日本軍が実施したインド侵攻作戦だった。 インパールというのはインドとビルマ(現在のミャンマー)の国境に近いインドの都市で、そこにあるイギリスとインドの軍隊の大きな基地を攻撃…

アジア図書館の本 ー韓国人女性の回想記『半分のふるさと』ー

著者イ・サンクム(李相琴)さんは1930年に広島で生まれ、15歳で祖国に帰国し、その後梨花女子大学で教鞭をとっておられた女性。 副題が「私が日本にいたときのこと」となっているように、宗主国日本で異民族出身日本人としてすごした多感な十代の少女の回想…