Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

アジア図書館の蔵書の並べ方

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もう数十年も前に市民から寄贈された本でアジア関連中心の図書館を創る運動をしている市民団体に勤めていたので、思い出、印象に残ることを書き残しておきたいと思ってきた。

 

この団体は現在も地道に活動されている。

職場をやめるときは愛着もあったけれど、解放感もあったことは事実。

現在は自宅から遠いこともあり、終活も意識して退会した。

だから、現在のことはホームページで知るわずかの情報以外ほとんど知らない

 

現在のアジア図書館の蔵書は借りているフロアが狭いので、すべてを開架できていないらしい。

私はすべて開架された状態の蔵書を眺められた幸運者の一人だった。

 

では、アジア図書館ではどのように蔵書が並べられていたか。

とてもユニークですばらしいものだった。  

まず本・雑誌・パンフ等は登録番号が授けられ、その国の書架に並べられる。

基本的には国ごとに、複数の国について書かれていたら地域ごとに日本図書館分類法に従い、蔵書が並べられる。

この並べ方はアジア図書館独自のもので、事務局長が中心となって作ってきたものである。

 

たとえばインドネシアコーナーの棚では、上から日本十進分類法に従い、

  • 0 総記 (情報学、図書館、図書、百科事典、一般論文集、逐次刊行物、団体、ジャーナリズム、叢書)
  • 1 哲学 (哲学、心理学、倫理学、宗教)
  • 2 歴史 (歴史、伝記、地理)
  • 3 社会科学 (政治、法律、経済、統計、社会、教育、風俗習慣、国防)
  • 4 自然科学 (数学、理学、医学)
  • 5 技術 (工学、工業、家政学
  • 6 産業 (農林水産業、商業、運輸、通信)
  • 7 芸術 (美術、音楽、演劇、スポーツ、諸芸、娯楽)
  • 8 言語
  • 9 文学 

と見出しをつけながら、このような順に並ぶ。

これが国ごと地域ごとだから、働いていた頃はなんと立体的な図書館だと思ってきた。 それぞれの書架からその国の個性が出てくるので、アジアの多様性にも気づかされる。

 

ベトナムコーナーとインドネシアコーナーでは並ぶ本が明らかに違っていた。

 

あるタイの留学生がタイコーナーの棚を見て「感激した」とだけ語り、あとはことばを詰まらせていた姿が印象的だったので、タイという国を例にしてみる。

書架のタイのコーナーでは、民族の歴史、地理、政治、経済にはじまり多分野にわたって収集されたものが並んでいる。

さらに図録、特集雑誌、私家版、自費出版、同人誌など大学、公立図書館では見落とされそうな雑本も収集している。  

有名なアメリカ映画「戦場に架ける橋」はタイを舞台にした第二次世界大戦中の捕虜の物語なので、文庫本の小説も映画パンフの類もこのコーナーに並んでいた。

分類は文学かな? パンフのような薄い冊子もアジア図書館には多い。

タイについてどのような文学作品があるのか読みたい調べたいと思えば、文学のところを探す。

日本人作家がタイを舞台に書いた作品や、タイ人が書いた文学作品の翻訳書が並んでいる。

タイの民話などを扱った絵本などもここに対等に並ぶ。

日本語の絵本は珍しいが、留学生からおみやげとしてタイ語の絵本をもらうといっしょに並ぶ。

アジア図書館では書かれた言語で分けない。

タイのシルクを世界に広めたアメリカ人実業家ジム・トンプソンの謎の失踪事件を、松本清張が独特の分析で推理小説にした『熱い絹』も並んでいる。

この本は個人的にとても興味深く読んだ思い出がある。

松本清張がタイを舞台に書いた珍しい短編がある。

題名は忘れたが、兵士だった男が戦後もタイにそのまま残り、現地で「酋長」のようなポジションについたのだが、日本から娘が会いにいくという話しだったと思う。

ストーリーに飛躍が感じられて、「こんな話も書いてるんだ」と思いながら読んだ記憶がある。

公共図書館では松本清張の著作の一部として棚に納まるが、アジア図書館はあくまでもタイの文学コーナーに並ぶ。

本のタイトルはなんとか短編集となるので、タイトルだけを見ているとどうしてタイのコーナーに並んでるのか不思議に思う人もいるかも知れない。

これは短編集の1作にすぎない短編がタイを扱っていると判断して登録までした担当者の見識が高かったということだ。

 

タイトルや見出しなどから総合判断してどこに収まる本かを決めることはアジア図書館の蔵書に命を吹き込む仕事のようだった。