Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

作家ハン・スーイン(Han Suyin)の自伝

自宅の本については断捨離をすすめてきたので、この作家の本はもう手元にない。

2012年に96歳でスイスで亡くなったという訃報を得て感慨深いものがあった。


1916年にユーラシアンとして中国で生まれ育ったけれど、中国人としても西洋人としてもはまりにくい立ち位置から、想像以上に生きにくかったことは自伝を読めばわかる。

 

たとえば、西洋出身の母親と自分たち子どもたちを他の西洋人紳士が、動物園の珍しい動物を見るかのような眼差しを向けてきたこととか。

結局、彼女は、時代の波に翻弄されて内面をつぶされていく兄や妹二人とは決別して、カトリックも捨て、中国人として生きるという選択をしていった。

 

アジア関係の本を収集している「アジア図書館」という民間図書館で働いていた時期がある。

多分野にわたる本に囲まれていたが、働いていると、さほど好きな本に手を延ばし読むという時間はとれなかった。
しかしここでなければ出会えなかったように思える本はあった。

アメリカ映画の「慕情」をご存知の年輩の方は多いと思う。
イギリス人と中国人のダブルの女医とアメリカ人ジャーナリストとの香港を舞台にした悲恋物語

女優ジェニファー・ジョーンズのチャイナドレス姿を思い出す方も多いかと思う。

私は彼女の古風な黒い水着姿とたばこを介したラブシーンの方が印象的。

この映画の原作は、実際はベルギー出身の母と中国人の父とのユーラシアンであるハン・スーインという女性が書いた『多くの光彩を放つもの』である。

ただし、日本では『慕情』という題名で、映画の原作であることがわかるように発行されていた。

もう絶版かもしれない。

女医であるヒロインの名前もハン・スーインなので、記憶されている人も多いはず。

悲恋のお相手はイギリス人男性。

アメリカ映画として映画化された時点で、主人公の母の出身国はベルギーがイギリスに、恋人の国籍はイギリスがアメリカに変わったのだろうか。

春秋社から出版された彼女の『自伝的中国現代史シリーズ』が忘れられない本である。

全5巻で、それぞれかなりのボリュームのある作品。

国史に興味がある方には、なかなか興味深い内容であることは保証する。
 
アジア図書館にどなたの手をへてたどついたのだろうか。

全巻はそろってなくて、第1巻から第3巻までしか当時はなかった。

3巻とも同じ所有者だったのか、別々のルートで縁があって並んだのかわからない。

出会いを待っていられないので、第4巻、第5巻は書店で求めたので、わが家の本棚にしばらく納まっていた。

のちにアジア図書館に寄贈した。

 

現在のアジア図書館の運営から離れて久しいが、中国コーナーにきちんと全巻並んでいるはず。

こんな図書館他にないだろう。