Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

『北朝鮮で兄は死んだ』を読んで

著者はまったく記憶にないかも知れないが、私は小学校中学年ぐらいのかわいい彼女を覚えていた。

「お兄さんが……」という話も当時ちらっと聞いた記憶がある。

 

ン十年ほど前に先輩に頼まれてほんの短い期間塾講師の替わりをしたことがあった。

ドリルをさせて答え合わせをするぐらいでいいといわれて軽く引き受けたが、鬼ごっこをしに来てるようなやんちゃな男の子3人の対応に追われる日々だった。

そんな中、一人静かにすわってマイペースで作業を進める彼女はまったく手がかからなかった。


「私は私でやりますから、そちらはそちらでやってください」といえる歳ではなかったが、そんなオーラを放っていた。

どんな感じの子だったか? 著者をそのまま小学校中学年にしたような聡明さは当時から持っていた。

近所の図書館で偶然手にした本から、いつのまにか表現者になっている彼女に再会した。

この本は、2009年七つ森書館から発行された本で、著者は梁英姫ヤン・ヨンヒ)さんという女性で、私より一回り半(?)ほど若い女性。

見た目の印象がいい人で、名前は思い出せないが、有名なバレリーナを思い出した。

「東京の朝鮮大学校を卒業後、教師、劇団俳優、ラジオパーソナリティ、アジアを中心としたドキュメンタリー映像作家を経て映画監督に」と経歴が書いてあった。
ドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」はベルリン国際映画祭アジア最優秀映画賞をとっている。

「ディア・ピョンヤン」については、それまでに新聞の紹介記事を読んでいたので、ご自分の家族の記録ということは知っていた。

彼女の父親は朝鮮総聯幹部で、その関係で三人の兄は北朝鮮に帰還して、そのうちの一人は心を病みながら亡くなったという。

以上の経歴で、同じKoreanをルーツにするとはいえ、私とは環境が大きく違う。
 
この本は佐高信さんとの対談という形で両親や兄たちのことをまとめられていて、聡明で明るい性格を持つ人柄が読み取れる一方で、北朝鮮にいる家族のことを思ってかなりの苦悩を持っていただろうことは想像された。

北朝鮮ピョンヤンを知っている人がここまで表現できることが珍しいし、日本のメディアから流れる一方的な映像(マスゲーム、軍隊の行進風景や女性アナウンサーの姿)からは知ることができないリアルな生活がわかり興味深かった。
その結果、一時期多くの在日朝鮮人の心をつかんだ朝鮮総聯の組織のあり方や北朝鮮の国のあり方に多いに疑問を生じさせてくれる。

今はどうか知らないが、当時の彼女は北朝鮮への入国は拒否されていた。

私はまったく朝鮮総聯北朝鮮の国家体制を受け付けられない体質だが、朝鮮総聯のおかげで自分自身を卑下することなく生きていく勇気を得たり、北朝鮮が大国に依存せず自立的に社会主義国家を建設しているということを誇りにしていた若者が少なからずいたことは知っていた。

日本社会で、彼らは朝鮮総聯サイドに繋がることで、それ以前よりもはるかに誇り高い生き方を当時体得していたのも事実。

この点に関してだけ考えたら、朝鮮総聯を非難することはできないと思ってきた。

思えば、朝鮮総聯北朝鮮の神話も、真実を知る一歩手前にいる頃が一番美しく存在していたのではないだろうか。