Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

朱徳の第一印象 『偉大なる道』序曲ー2

 身長は5フィート8インチ(173cm)ぐらいだろう。みにくくもなく、好男子でもなく、また英雄的とか烈火のごとしとかいう感じはまったくない。頭は丸く、短く切った黒髪には灰色がまじっていて、額はひろびろとしてやや高く、頬骨は張っている。強くがっしりとした上下のあごが大きな口をささえ、彼が歓迎の微笑を見せたとき、完全にそろった白い歯並びがかがやいた。鼻は幅ひろくて短く、顔色は黒い方だった。とても平凡な容貌だったので、もし軍服を着ていなければ、中国のどこかの村里の百姓のおやじさんぐらいにしか見えないだろう。

 

 彼を知る人びとは、彼は、素朴で親切で庶民的な人物であり、労苦は惜しまず、自分を英雄に見せようなんて気持ちは少しももっていないと私に教えてくれていた。すべて当たっていたが、ただ「素朴」という言葉は、ある意味において真実と但書をつけたほうがいいと思う。私を見つめたその目は、とても注意深く、観察的であった。ほとんどの中国人の目の色は黒いが、彼の目は淡い褐色で大きくて、知恵と分別でかがやいている。このように長い年月辛酸をなめてきた革命指導者がまるっきり素朴だったとすれば、生き抜くことはできなかったはずである。


 一瞬、私が感じたことがある。それは、彼の声から動作から、しかと踏まえた足構えまですべてが男性的だということだった。室内の暗さに目が慣れてくると、彼の軍服が長年着古して洗いざらしたもので、いたんで色もあせているということがわかった。また、彼の顔は無表情ではなく、心をかすめるあらゆる感情の影をいきいきと表現していることもわかった。


 私は、彼についてふりまかれた噂のかずかずを思い出しながら、匪賊呼ばわりについて笑いながら話しかけてみたが、彼もまた一笑するものと予期した。ところが、彼は笑うどころかにわかに黙りこんで頭を垂れ、土の床をじっと見つめたが、その顔は、悲劇の中にいる人物のように苦痛にゆがみこわばった。その瞬時に私がかすかにとらえた深刻で悲劇的な激情のほのめきは、友人や同志にも稀にしか見せなかったのだろう。それゆえに、それを知らない人びとは、彼をいつも変わらない楽天家というのだろう。――すぐさま彼は頭をあげ、まっすぐに私を見つめていった。


 「匪賊の問題は、階級の問題です」