Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

成都の繁栄 『偉大なる道』第2巻②ー1

 成都への道をひたすら急ぎながら、朱徳は心の中で叫んだ――地上に四川ほど美しいところがあるだろうか、こんなに堂々たる山、とうとうと流れる河、なんと豊満で香ばしい果物や花々だろうか。紅葉に燃える谷間や山腹に近道をとりながら、夜明け前に起きて、昔ながらの農民の歌を口ずさみながら歩き出す。夜には、ぐったりとなり、埃まみれになって、どこかの農家に宿をもとめるが、そこでは旅の人への親切は当たり前のことで、金をはらいますなどといえば、失礼になる。食べ物は道ばたで売っている。

 

 5日目の午後おそく、省都にゆくのにかかる通常の日数の半分以下だったが、彼は、赤土の野のかなたに、巨大な中世のような成都の城壁をのぞみ、そのはるかかなたに、空にそそり立つ山々の姿が蒼く霞んでいるのも見た。

 

 音を立てて流れる川に入って水浴びし、上等の靴を出してはき、それから1時間ほどすると、彼は外城の北門の壁に、まるで何か神聖な誓でもするかのように手を差しのばしてさわった。それから、彼は、豪華さを北京ときそうといわれる、何千の壮大な店舗や古い建造物がひしめく、市街の迷路のなかに踏みこんでいった。とうとうやったぞと心がおどって、疲労も忘れ、彼は今こそついに中国西部の文学、教育、政治、商業の中心地に来た、という感慨をもつばかりだった。


 彼の幼いころの空想の「大街道」は、ここで、東や北、南方雲南からと、はるか遠いチベットからの大貿易路とひとつになっていた。ひろく清潔な街路、黄金色にかがやく商店看板、何万という料理店や酒店や薬種店、高価な四川の絹や舶来品があふれる大店舗、そのような豪壮な姿をいままで彼は夢の中でも描いたことがなかった。