Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

帰郷と家族との再会 『偉大なる道』第2巻②ー6

 2年間も家をはなれていたので、朱徳は、自分がいかに新中国的な存在になり、家族がいかに旧時代のままに取り残されているかということに気がつかなかった。大湾に向けて歩いて帰るとき、彼は、家のものは彼が成都の学校のことで嘘をついたことを了解してくれる、と信じていた。よく説明さえすれば、新しい職業をみとめてくれるだろう。――とりわけ、かなりの額の金をかせげるようになって、自分の教育のための借金だけでなく、家の借金もぽつぽつ返してゆくことができるのだから。

 

 前もって手紙を送って、夏は家ですごして田んぼの手伝いをするといっておいたので、みなは待ちかまえていた。甥のひとりは、遠方から手を振りさけぶ朱徳をみとめると、手を振りかえすことも忘れて、野良を飛び走って家に向かい、それから、大変な騒ぎになり、何もかもきりきり舞いだった。朱が家に着くまでには、家族全員が二列にならんでいて、彼が近づいてゆくと、彼に向かってうやうやしく頭をさげた。息子として扱わず、義父が礼をしながら家にみちびき入れ、広間のいちばん上席にすわらせた。まわりの家族それぞれの目は誇りにかがやき、貧者が高貴で権勢をもっている人の前で話すときのように、かしこまった敬語で彼に話しかけた。

 

 この帰郷について語ったときの朱将軍の声は、あわれみと悲しみのために低くなった。家中が掃除してあり、彼のために特別のごちそうがつくられ、家のだれもかつて自分ひとりの部屋などもったことがなかったのに、彼だけのために特別の部屋が用意され、そこには家で一番上等の寝台と卓と椅子がそなえられていた。そのうえ、唯一の上等な寝床用の敷物も彼にあたえ、夜の灯火というぜいたくを味わってもらうために、種油を使用する裸のランプまでがあった。家族は、彼にだけ御馳走をして、自分たちはまずいものを食べていた。彼らはだまってはいたが、目はいぶかしげに彼の爪にそそがれていた。彼の爪は、官吏や郷紳がするように長くのばさないで、家族たちと同じように短く切ってあった。みなが自分を、大官であるか、これからなる人と思っているのだとわかったときは、がーんと打ちのめされたような気持ちになったが、じつは嘘をついていたので、これから体育という今まで聞いたこともないようなあやしい科目の先生になる、とみなに告白するときを、一寸のばしにのばしつづけた。