Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

軍閥への転向者 『偉大なる道』第3巻③ー3

 朱将軍の物語は長くて複雑だったが、もともと中国でのこの種のことは単純であるはずがない。それは、かぞえきれないトンネルが入りまじった広大無辺の地下迷宮にも似ていた。

 

 熊克武(ゆうこくぶ)将軍、すなわち標本Xは、幕僚張群とともに、そのときまでは、忠実な国民党員だった。しかし、ひとたび権力をにぎると、標本Xは、まさに先行の軍閥そのままの行動をとりはじめた。土地をかき集め、大領地をきずき、現金は上海のイギリス銀行に送り、やがて2年とたたないうちに、百万元をこえる現金資産をもつまでになったといわれる。こうした軍閥はみな、おのれの地位をあわただしく失う不安をもっていたので、日が照るあいだに乾草をつくった。

 

 権力と富は、さらに野心をあおりたてるもので、標本Xは、まもなく内々に、彼の前の敗北軍閥の軍隊を吸収して、おのれの手兵を充実しにかかった。一方では、小さかったが最も野心的な地方軍閥劉湘と軍事同盟をむすび、1920年の5月のころには、おのれの富と力は、雲南護軍を省外に追い、省を自分の領土に十分できると感じるようになった。そこで、にわかに北京の軍閥政府への忠誠の宣言をし、かつての同志たちにむかって、四川を撤退せよ、さもなければたたき出す、と通告した。この男の野心が、どの程度のものであったかは不明だが、とにかく全国の軍閥どもが相戦っていたときだった。いちばん上にせりあがった奴は、北京を取り、「共和国大総統」と名乗ることもでき、即座に外国の承認もうけ、それから、もし彼が「いい子」であったならば、外国借款をせしめることもできただろう。