Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

弟二人の戦死からアヘン吸飲 『偉大なる道』第3巻③ー8

 「その短期間の戦闘にやぶれて、旅団は大損害をうけた」と朱将軍はゆううつに語った。

「一週間とたたないうちに、弟は二人とも戦死した! 私は弟たちの棺を守りながら、部隊を濾州まで引きあげた。おそろしい帰還だった。両親は、あまりの打撃に泣くことすらできなかった。そして故郷に引きこもろうとしたのだが、この私がひどく弱っていたので、私のために、しばらく濾州にいることにした」

 

 朱将軍は、彼の生涯のこの時期について語ることが、いかにも辛そうだった。屈辱感と罪悪感であふれそうで、その結果がアヘン吸飲となってしまった。

 

 アへン吸飲は、士官や役人たちにとっては、まったく有りふれたことだったが、彼はいままでそれを避けてきていた。しかし今は、アヘン用のキセルとランプをたずさえて横たわり、吸いながら友人や秘書の孫炳文たちと話をした。孫は彼を麻薬から遠ざけようとしたが、力がおよばなかった。彼は孫にこたえる。「うん、こいつをやめて外遊して、おれの新生活と、中国の新生活の道を見つけ出すんだ」彼はかたっては吸い、かたっては吸い、家族を避け、軍務をおこたった。

 

 それから熊克武将軍、すなわち標本Xとのあいだに、最後の死闘が起こり、朱の旅団中ただ一個連隊ほどを残すだけになった。

 

 この惨害を経験したあと、家族はもはや彼のもとにとどまる気はなくなり、ひたすら故郷に帰りたがった。彼も反対できなかった。金をあたえて、舟で重慶まで送ったが、そこから彼らは舟をかえて北四川に向かうことになる。10日後に、一行から手紙がきたが、それは彼の老父が重慶で死んだことを知らせ、棺の供をして帰って、父祖の地大湾の近くに葬ることにした、といっていた。

 

 彼のまわりの世界は、すべて荒廃であり、ただアヘンのみが彼の精神的混乱と苦悩をすこしばかり和らげた。孫炳文や妻は忠告したけれど、彼は現実に向き合う勇気がなかった。