Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

ベルリン軍事博物館で受けた衝撃 『偉大なる道』第4巻②ー6

 こうして、毎日毎晩、勉強から立ちあがっては探検に出かけ、いつまでもいつまでも、歩きつづけた。ベルリン軍事博物館では、過去の戦争の武器や、ドイツ軍が捕獲した軍旗などを見た。その軍旗のむれの前で、一度、急激な衝撃をうけて立ちすくんだことがあった。目の前に、義和団の乱のときにドイツ軍がとった中国の旗があった。どのくらいの時間それを見つめていたかはわからなかったが、かつて上海や南京や北京で経験したように、彼の脳裡を、ふたたび幻の大軍勢が行進しはじめ、彼はその将軍として先頭に立ち、戦闘に突入し、中国の敵をうち殺したり、海につき落とす。何日も、彼が街路を歩くとき、その幻の軍勢は立ちあらわれて、彼の心をつかまえてはなさなかった。彼の指揮下に、彼らはベルリンの街路にバリケードをきずいたが、ふしぎなことに、何人かのドイツ兵も中国人の同志とともにその場で戦っていた。そして、いつも彼は勝ち、敵は敗れた。

 

 ふたたび朱将軍は、その幻を振りはらうかのように首をふりながら、いった。

 

 「私の頭は、軍事的にしか、はたらかないようだった!」

 

 そのうちに、自分はもはや、ベルリンでは、見ておいたほうがいいと思われるすべての街路と建物と施設をまわったと思うようになった。多くの労働者の家庭や、多くの知識人の家庭も訪問したし、郊外の大公園や森林もおとずれ、ポツダムの宮殿と庭園のあいだをさまよい歩いた。共産主義青年団のキャンプにも行ってみたが、そこでは、少年や少女が整然と長い列をつくっていて、彼にむかって、注意深く考えた上での、中国についての質問をしたが、多くは、なかなか答えにくい難問だった。

 

 それから彼は、中国領事館の紹介状をもって、大工場の見学もしたが、機能の複雑さが、彼をおどろかせもし、まごつかせもした。彼の探検の足は他の都市にまでのびていった。やはり領事館の紹介状をもって、まずベルリンに近い工場や鉱山、諸施設をたずね、少しずつ行動半径をひろげていった。