Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

蒋介石の変節 『偉大なる道』第5巻①ー11

 蒋介石は、そのほか多くの要求を国民党に向けて出してきた。軍のなかにある政治部は、国民党内の政治的勢力を軍人の上におくための力だったが、蒋介石や多くの将軍たちには脇腹に突きささるトゲでもあった。隊内の政治委員は、ほとんど副司令官といえるもので、軍事革命すら、承認したり拒否する権力をもっていた。孫逸仙が、ロシア人顧問団の勧告によってとりいれたこの制度は、軍人権力の拡大をふせぎ、過去に見てきたように、個々の将軍が、彼の軍隊を私兵として使って軍閥になることをふせぐ目的をもっていた。各部隊内に配置された政治工作の要員たちは、兵士たちに一般的な学課について教えるだけでなく、革命の計画と目的について教育する義務をもった。また政治工作員は農民と労働者を動員して、北伐軍を支援させ、それによって、大きな力を盛り上げて、封建的な社会秩序を揺るがした。軍の内外のこうした政治工作員の大部分は、共産党員か国民党の左翼のものであった。

 

 それで蒋介石は、大衆運動を解消し、あるいは「秩序を回復させる」こと、軍内の政治部は全廃することを要求した。というのは、朱将軍がきいた話では、政治部は軍命令に干渉しているというのが蒋の意見であった。さらに蒋は、大衆運動、政治委員制、共産党というのはロシアから輸入したもので、中国の国民性とは相容れないと主張した。そこで彼は、ロシア人政治顧問団の主席ミハエル・ボロディンをとくにゆびさして、あらゆる悪の元凶であり彼の主敵であるとした。つまり、ボロディンの背後には、国際共産党の暗影がただよっているというのであった。――かつて彼は、それを世界の非圧迫者の希望として大いに讃美したのに。