Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

日記に記された大草原の泥水 『偉大なる道』第9巻④ー3

 紅軍の別のひとり、モー・シューは、日記の中でこう書いている――

 

 「今日、ひとりの同志がどろどろの水の中でもがいているのを見つけた。体は引き込まれて泥水でおおわれていた。鉄砲をしっかりつかんでいたが、泥の杖のように見えた。私は、彼がただ落っこちて立ち上がろうとしているのだと思って、助けて立たせようとした。私が引っぱると彼は二歩進んだ。そしてその身体の重みが全部私にかかった。その重いことといったら――私は彼を支えていることも、一歩踏み出すこともできなかった。彼にひとりで歩くようにいって、私は手をはなした。彼は道に倒れて身をもがいたが、それでも鉄砲にすがりついて起きようとした。私はもう一度持ち上げてやろうとしたが、ひどく重いし、私も衰弱していて不可能だった。そのとき、彼が死にかかっていることがわかった。私はまだ炒り麦をもっていたので、彼に与えたが、噛むことができなかった。どんな食べ物でも助からないことは明らかだった。私は炒り麦をそっと私のポケットに戻した。彼が死んでから、私は立ちあがって、彼をそのままに立ち去って行った。次の休憩地に着いて、私はポケットから炒り麦を取り出したが、噛むことができなかった。死にゆく同志のことを考え続けた。私は、彼を、倒れた場所に残してくるしかなかった。そうしなかったら、私自身がわが軍からおくれ、連絡を失って死ぬことになるからだ。そう考えてもやはり、その炒り麦を食べることはできなかった」