Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

飢餓と戦闘に苦しみながら甘粛省の平野に到着 『偉大なる道』第9巻④ー5

 蒋介石は、有名な十九路軍の一師団まで辺境地帯に送りこんできた。だが、紅軍との戦闘でその二個連隊が壊滅すると、指揮官は逃亡し、8百人の兵士が投降してきた。この兵士たちの話しを聞けば、十九路軍のかつての指揮官たちは、ほとんど追い出されて、藍衣社系の将校がこれに代わっており、この将校たちが、紅軍は捕虜の首を切り、眼をくりぬき、腹を裂くという宣伝をしていた。ある兵隊は握り拳で自分の頭をぶちながら叫んだ。「あんなうそを信じたとは何というバカな頭だ!」

 

 ほかの捕虜が笑いながらいった。「おれたちの隊長がいったことはなにもかも嘘っぱちだ。いちいち頭をぶってたら、貴様らは自分の頭の鉢を叩き割らにゃならんぞ」

 

 「おれはあいつらのでたらめな話なんか信用してなかったから、自分をぶつなんてしないさ」いまひとりがいった。「将校は、おれたちは日本のやつらと戦うために北にむかうのだ、といっていた。こんなみじめなところに来てはじめて、同国人と戦うために送られたことがわかった。おれは紅軍に参加する」もうひとりの兵隊がいった。「おれはこんな未開の土地を出るまでは紅軍といっしょにいて、それから家に帰ろうと思う」「貴様は、家に帰りつくことはできないだろ……途中で捕まって、もう一度蒋介石の軍隊につきもどされるにきまってる……それにしても一文無しでどうやって家まで帰るんだね」仲間が反論した。「途中、乞食しながらでも家に帰るんだ。もしやつらにつかまって、また蒋介石の軍隊に戻されても、ぜったい戦わんつもりだ!」「へええ、だがその時になってみると、思いどおりにはならんぞ。もしおまえが戦わなけりゃ、将校に後ろから射たれるだけだぞ」「そんな話は、もうよせ!」とまわりから攻め立てられた兵隊がさけんだ。「とにかく、もう一度紅軍との戦争に引きだされたら、また銃を捨てて投降するんだ」

 

 飢餓と戦闘になやみながら、ついに紅軍は甘粛省境の敵の防衛戦を打ちやぶって、甘粛省の平野になだれ込んだ。まるで骸骨のようにやせ細った軍隊で、数百人がはげしく咳きこんでいる状態だったが、軍閥の師団を次々に粉砕し、米、衣料、貨幣や薬品などを手に入れた。その時には毛沢東の縦隊はわずか2万人になっていた――だがそれは、おそらく世界一頑強で強い自覚をもった古強者(ふるつわもの)ぞろいだった。