Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

必要なのは大衆動員と大衆訓練と国民党軍の改革 『偉大なる道』第10巻②ー5

 話の途中に彭徳懐が入ってきた。普段は厳格でしぶい人だが、敵の背後の広大な地域でおこった数々の小さな勝利を報告する彼は、実に楽しそうであった。朱将軍は、色あせた赤い星のついたみすぼらしい軍帽を、刈りたての頭の後の方へずらしたまま、目を細めて聞いていた。

 

「あなたに、われわれの大衆動員と大衆訓練の方法を視察してもらいたい」彭将軍は楽しそうに手をふりながら大声でいった。「人民は海で、われわれはその中を泳ぐ魚のようなものだ。これは民族革命戦争だ。勝利はわが部隊の勇気と自信と戦闘力と、指揮官と戦闘員の親密な関係、われわれと他の中国の軍隊との緊密な協力――そうしたものにかかっている。われわれは兵隊や民衆の間で、猛烈な政治工作をやっている。民衆は男も女も子どもも、ひとり残らずわれわれのまわりに結集している」

 

彭将軍は両手をテーブルにつっぱって続けた。

 

 「もちろん、あなたは力強いスローガンやポスターをたくさん見てるだろう。しかしもっと大切なことは、わが部隊や遊撃隊や民衆を教育することだ。われわれの目標は深い民族意識を発展させることであり、敵の状況ともくろみについて、わが部隊と民衆を啓蒙することだ。勝利はただでは得られないことを、みなが認識しなければならない。戦争はいま始まったばかりだ!」

 

 朱将軍は目を細めたままだったが、じっと一点に目をこらす様子で答えた。

 

 「そのとおりだ! だが国民党軍ももっともっと変わらなければならない。国民党の将校は、いまでも兵隊をどなりつけたり殴ったりして――頭ごなしに服従を強制している。あれは封建的なやり方だ。あれをやめて、友情、相互の敬意、信頼と助け合いでゆくべきだ。悲惨も幸福も、全員でわけ合わないとだめだ。将校と兵隊の生活状態も大体同じようにして、みなが心から戦場に立てるようにしなければならない」

 

 「そんなことできますか」と私が懐疑的にたずねると、いつも楽天的な朱徳は答えた。

 

「それには時間がかかる。わが軍は模範にならなければならない。戦争がつづくあいだに、国民党軍を改革してゆく必要があり、そうしなければ敗北するだろう。ところであんなに多くの中国人の傀儡どもが日本軍の側で戦っているのは、なぜだろうか? 中国人によって中国を征服する、と日本人が自慢するのは、なぜだろうか? その理由は、国民党が、国内の封建的諸条件や軍隊内の封建的やり方を一掃するための努力を、何ひとつしなかったからだ。われわれは国民党に、その非をさとらせて、傀儡軍をわれわれの方に引きつけなければならない」