Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

日本人捕虜の話し 『偉大なる道』第10巻②ー8

 ある町での出来事であるが、民衆大会でふたりの日本人捕虜に話をさせようとしたら、ものすごい騒動になって、「鬼を殺せ!」という殺気立った叫びがあがった。八路軍の代表者たちは群衆をしずめようと必死になっていた。そこへ「朱徳だ、朱徳だ」という声がきこえた。朱徳は大股で演壇にあがった。議長をしていた町長が進み出て群衆にいった。

 

 「われわれはみな、何年も前から朱徳という名を聞いていた。その彼がいま現にここにいる! いまさら私から紹介することはない」

 

 朱将軍は、はじめに抵抗戦争における人民の役割についてかたった。そのあとで、日本の兵隊たちは、日本の軍閥や財閥のために徴兵されて中国に送られた労働者や農民だ、ということを知ってもらいたいとのべた。そしてつづけた。日本の人民がこの戦争をはじめたのではない。日本の多数の反ファシストたちが、戦争に反対して、投獄されたり殺されたりしている。八路軍日本兵をとらえて教育し訓練し、彼ら自身の貪欲な支配階級とたたかい、中国の勝利を助けてもらうつもりだ。

 

 この地方のひとびとにとっては、こんな考えを聞くのはこれがはじめてだった。日本人捕虜のひとり、無線兵が演壇の前にすすみでて話した。

 

 「私は兵隊だが、労働者でもある。日本の軍閥はこの戦争を望んでいるが、日本の人民は望んでいない。私は、強制的に徴兵されて、この国に送られてきたが、捕虜になるまでは、中国の人民がこんなに親切だとは知らなかった。これからは私は中国の人民と肩を組んでゆくつもりでいる」

 

 朱将軍は、のちに私に、日本人大尉の、捕虜になってからの横柄な態度のことを話してくれた。あるとき林彪が、この捕虜のいる家に入ってゆくと、彼はすわったまま、林に鶏や卵や米を持ってくるよう命じた。林は冷ややかに落ち着いた声でこたえた。「われわれが君を親切に扱うのを誤解してはいけない。われわれが君の目下のもの、という意味ではぜったいない。われわれは粟を食べてるが、君には米をやっている。君は君を見に来た農民をなぐったというではないか。このため君を殺そうとは思わないが、今後中国人をなぐったら、公衆の面前で鞭打つぞ」

 

 この話をしながら、朱将軍は唇をかみ、じっと目を見すえた。

 

 「今まであの男は徒歩だった」彼はいった。「今日あいつに私の馬をやって乗らせた。捕獲した日本煙草の一箱もやった。とまどったようだが、うけ取った。あの男もわかってくるだろう」