Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

日本人捕虜の扱いに対する命令書発令 『偉大なる道』第10巻②ー9

 朱将軍は、彭徳懐との連名で発令したばかりの、八路軍全軍に対する命令書の写しもくれた。それは次のとおりだった。

 

 「日本兵士は日本の勤労大衆の子弟である。彼らは日本の軍閥と財閥の欺瞞と強制のもとに、われわれと戦うことを強いられている。したがって、

 

(1)日本人捕虜に対し、いかなる種類の加害ないし侮辱も厳重にこれを禁止する。かれらの個人的所有物を没収し、あるいは毀損することは許されない。わが軍の指揮官や各級戦闘員で、この命令に背くものは処罰される。

 

(2)すべての傷病日本人捕虜に対しては、特別の保護と適当な医療処置をあたえなければならない。

 

(3)本国または原隊に帰ることを望む日本人捕虜に対しては、あらゆる可能な便宜をあたえなければならない。

 

(4)中国にとどまり、あるいは中国軍のために働くことを望む日本人捕虜には、適当な仕事をあたえ、勉学することを望むものには、適当な学校への入学を斡旋してやる。

 

(5)家族または友人との連絡を望むものには便宜をあたえる。

 

(6)戦死した日本兵は埋葬し、適当な石または木の墓標を設けるものとする」

 

 朱将軍はこの命令の(3)について次のように説明した。

 

 「われわれが日本人捕虜を原隊に帰らせると、紅軍は捕虜をなぶり殺すといった種類の将校たちの宣伝のうそが、暴露することになる。われわれはこの命令書を日本人捕虜ふたりに見せた。彼らは、日本の軍事法規では捕虜になったものは、本国に帰ることを許されないし、原隊に帰るものは射殺される、といっていた」

 

 「そうなっているかも知れないが、われわれは、原隊に帰ることを望む日本人捕虜を帰すつもりだ。もし将校が彼らを殺せば、兵隊のあいだの不安をかきたてるだけのことになる。やがては日本の兵隊が、戦わずにわれわれに降伏するとか、あるいは脱走して参加するような時がくるにちがいない」

 

 数日後、私は朱将軍が村で買ったビスケットを日本人大尉にあたえて話しかけているところに出くわした。大尉は礼をいって、考えぶかげにビスケットを食べた。そして話しだした。

 

 「現在の紛争処理のやり方を変更する国際的な運動があってもいいはずだと思う。ここでは中国人と日本人とひとりのアメリカ人がいて、みなじつに仲良くやっている!」

 

 「君はいま、そういう運動とともに行進しているんだ――だからこそ君も生命が続いているわけだ」朱将軍が答えた。「君の軍の中にも、その運動の一員であるひとびとがいるよ。われわれは戦場で、彼らのポケットから反戦パンフレットをとってきている」

 

 「私はそんなパンフレットのことはきいたことがない」大尉はさけんだ。

 

 「君が将校だったからだ。日本の兵隊がわれわれを手伝って日本軍閥をやっつける日が必ずくるだろう」

 

 「日本軍を負かすのはそんな簡単なことではない!」大尉がぷっつりといった。

 

 「だが、必ずそうなる」朱将軍は反駁した。