Out of Far East

東アジアの文化歴史の個人的覚書

『偉大なる道』にまつわる客家(ハッカ)いろいろ

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客家(ハッカ)いう言葉は、アジア図書館に勤めていたころ初めて聞いた。 

それ以来何だろうとずっと気にはなっていた。

どうやら中国の歴史において、被差別者集団として扱われた時期があったらしいと知ってなおさらだった。

 

台湾出身の女性留学生に講演してもらったときにきいた「私も客家です」という表現が耳に残っていて、こういう風に自分を語る情報の一つでもあることを知った。

といっても、講演の参加者が「今でも台湾では客家は差別されているのか」と質問したので、理知的な彼女が冷静に受け答えする中で出てきた表現だった。

とにかくこのいい方から、彼女は台湾人だけれども、実は大陸にルーツがあり、客家語母語かも知れないことが想像できた。

 

四川省で生まれた作家ハン・スーインの一族も客家だった。

彼女は、読書人階級だったおかげで、文字で残されていた一族の膨大な資料を読み込んで、客家とはどういう集団であるかを自伝の中でかなりのページをさいて説明していた。

こういう試みは彼女だけではなくて、アジア図書館には客家について書かれた日本語中国語の本が、一つのコーナーができるぐらい数多く所蔵されていた。

 

同じ漢民族ではあるが、集団で中国国内を大移動してきた人たちといわれている。

中原呼ばれた古代王朝の中心地である黄河中流周辺地域から、自然災害や戦乱に追われて南方に移ったと伝えられ、主に広東、福建、江西省の境界の山岳地に住んだといわれている。

中国内の移動・定着の歴史は、およそ6段階に分類されていて、最初が秦の時代といわれているので紀元前となる。

移動の規模は単なる村単位ではなくて、ハン・スーインの自伝では、確かイングランドスコットランドぐらいの土地の面積からの人口移動になるという。

中国らしいスケールの大きさを感じる。

しかも現在客家を自称する人は1億を越えるというから、一つの国と考えてもよさそうだ。

 

客家の人々はその土地においてよそ者なので、当然周辺に住む他の集団とは異なり、山間部に好んでというか仕方なく居住することが多く、独特の言語・文化を保ってきた。

客家の典型的な住居は、何家族も一緒に住む丸い家で、観光地になっていることがある。

なぜ丸いかといえば、外部から攻撃してくる者の侵入を防ぎやすいからだ。

戦略上の円陣を組むという感じかな。

 

さらに何世紀も経ると、広東、福建、江西省にいったん定着した集団から内陸部の四川省に移動する人たちが出てきた。

ハン・スーインの一族で最初に四川省に来た先祖は、貧しい塩の行商人だったが、世代を重ねていく間に富を蓄え、学問を身につけていき、やがて読書人階級を形成するまでになったという。

もちろん移動するのは本家ではなくて分家で、長男ではないことは容易に想像できる。

四川省出身の政治家や朱徳の配下にいた陳毅も、似たような階級形成の歴史をもつ一族と思われる。

 

朱徳の一族も、広東省に本家がある客家なので、次のように『偉大なる道』には書かれている。

 

「……彼らは他地方から移住してきたのであり、まだ八代と経ってはおらず、従ってはえぬきの人または郷土創建の家系ーーと見られる権利は獲得していなかった。朱の族の最初の一団は、白蓮教の大叛乱の直後、つまり18世紀の末から19世紀の初めかに、はるか南の広東省からやってきた。その叛乱と満州朝による制圧とが、この地方の人口を稀薄にしたので、広東や広西の貧農たちが流れこんできて……」

 

朱徳の家族は、80年も四川に住んでいたが、まだ広東語を使い、広東の習俗を保っていて、朱徳の代になって広東と四川の二つの方言を話せるようになったという。

朱徳はここでは広東語といっているが、これは厳密にいえば客家語のことだと思っている。

 

先祖がかつて移動してきてよそ者として苦労した経験から、外の世界に目を向ける子孫が生まれたと考えるのは自然なことで、華僑の中で客家が占める割合が多いのもうなづける。

世の中の不正義に対して敏感であることや、勤勉であることも客家の特質として語られる。

海外で商いで成功した者が出てくるのも当然だ。

 

有名な太平天国の乱の洪秀全や石達開など指導者や兵士にも、客家が多かった。

孫逸仙もそうだし、朱徳の参謀長だった葉剣英も広東の豪商出身で客家だった。

その他中国革命に関わった有名無名の客家出身の人材はたくさんいて、毛沢東客家について論文を書いていることはハン・スーインの自伝で知った。

革命途上で、客家の特異性について考察せざるを得ない情況を見てきたのだと思う。

客家の歴史への興味は尽きない。

 

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